【北朝鮮】金正恩政権を倒すのは北朝鮮の"ヤクザ" 自慢の「秘密警察」は崩壊寸前[9/30]

アメリカと北朝鮮が「強硬発言」の応酬を続けている。戦争直前のようにも思えるが、元航空自衛官の宮田敦司氏は「アメリカ側に“口撃”以外の有効な手だてがないあらわれ」と指摘する。

北朝鮮の暴走を止めるには、どうすればいいのか。宮田氏は「北朝鮮の『ヤクザ』を使えば政権を倒せるかもしれない」という。秘密警察が崩壊しかかっているという国内の実情とは――。

米国と北朝鮮の強硬発言が続いているが、日を追うごとに強い表現を並べ立てるだけの、実効力のない「口撃」の応酬となっている。これまでよりも表現が強くなっているのは、とくに米国側に「口撃」以外の有効な手だてがないことを意味している。

米政府高官による「武力行使も辞さない」といった意味合いの発言も飛び出しているが、実際には北朝鮮に対する武力行使は不可能に近い。

体制維持の両輪は「軍」と「秘密警察」

北朝鮮の独裁者は、「外圧」による政権崩壊を阻止すために強大な軍隊を、「内圧」による政権崩壊を阻止するために強大な秘密警察(国家保衛省)を駆使してきた。

だが「外圧」に対処する北朝鮮軍は、強大であったはずの地上軍の弱体化に歯止めがかからないうえ、海軍は艦艇、空軍は航空機が更新されることなく老朽化を続けている。このため、すべての問題を核兵器と弾道ミサイルで解決しようとしている。

一方「内圧」に対処する秘密警察は、国民を弾圧することにより、反体制運動による体制崩壊を阻止してきた。しかし、組織の腐敗によって国民の監視が十分に行われておらず、社会の統制は緩み続けている。

北朝鮮では軍隊と秘密警察は体制維持の両輪となっている。したがって、どちらか片方が壊れてしまった場合は体制維持が困難となる。しかし、いまの北朝鮮は「内圧」に対処する秘密警察が壊れかけている。

軍の場合は、弾道ミサイルを作ることで解決が可能だが、新兵器を作ることができない秘密警察の弱体化を防ぐ手だては、いまのところ存在しない。

現在、米国が試みているのは「外圧」の強化であり、「内圧」には関与していない。経済制裁を強化することにより、潜在的な「内圧」を引き出すことはできるかもしれない。しかし、それだけでは体制を崩壊へと導くことはできない。

両輪の腐敗が進み、治安が乱れる

軍と秘密警察の弱体化は、食糧不足に起因している。軍の将校や秘密警察の要員だからといって、1980年代のように優先的に配給を受け取ることができなくなったからだ。

北朝鮮では10年以上前に配給制度自体が崩壊しているので、平壌に住む特権階層以外の国民は商売などで自活せざるを得なくなっている。軍の将校は食糧の横領、秘密警察や警察(人民保安省)は、国民や犯罪組織からワイロを受け取って生活している。

そして、国民の監視が不十分になったことで犯罪が急増している。これは秘密警察だけでなく、警察の機能も低下していることを意味している。しかも、後で触れるように数十人規模の犯罪組織が生まれるような状態にまでなっている。反体制組織の規模が広がる素地ができつつあるというわけだ。

北朝鮮に反体制組織が存在していることは、金正恩自身も認識している。これを示すものとして、2012年11月に金正恩が全国の分駐所(派出所)所長会議出席者と人民保安省(警察)全体に送った訓示がある。

「革命の首脳部を狙う敵の卑劣な策動が心配される情勢の要求に合わせ、すべての人民保安事業を革命の首脳部死守戦に向かわせるべきだ」
「動乱を起こそうと悪らつに策動する不純敵対分子、内に刀を隠して時を待つ者などを徹底して探し出し、容赦なく踏みつぶしてしまわなければならない」

つまり、12年の時点で金正恩は国内の統制について不安を感じていたのだ。金正恩には側近からの「耳当たりのよい報告」しか届いていないはずなのだが、もはや看過できない状態になったのだろう。

ヤクザ、学生集団……犯罪組織が跋扈する

大都市では、監視と取り締まりが行われているにもかかわらず、数十人で構成される犯罪組織や日本でいうヤクザが存在しており、闇市場での生活必需品の密売や恐喝などを行っている。

http://president.jp/articles/-/23220

>>2以降に続く)